小説「光の物語」第94話 〜深雪 7 〜

小説「光の物語」第94話 〜深雪 7 〜

スポンサーリンク

深雪 7

ナターリエはマティアスへの返事を書きあぐねていた。
それというのも、彼からの手紙はあまりに素晴らしいものだからだ。


シエーヌの最新情報を知らせてくれるのはもちろんのこと・・・
彼の地の政治・経済的な状況など、今後のためにナターリエが知っておくべきことをわかりやすくまとめて教えてくれる。
しかも、読むのが負担にならない程度の分量に抑えてくれているのだ。
自身も文章を書くのが好きなナターリエにはその気遣いがよくわかった。


それに加え、マティアス自身の近況も少しだけだが記されている。
他愛もない話にも独特の視点が滲み出ていて、まるで彼がすぐ近くで話しているかのようだ。


マティアスは優しくてすてきな人だ・・・ナターリエはつくづくそう思う。
彼を思うとなぜか涙が出そうになり、あわてて手紙に意識を引き戻した。


「こんないいお手紙につまらないお返事なんて・・・」
ナターリエは机の上のオスカーに話しかける。白猫はナターリエが広げた紙にお尻を乗せて邪魔していた。
「領主らしくしたいけど、なにが領主らしいかなんてわからないもの・・・どうしたらいいと思って?」
白猫は無言で微笑を浮かべるばかり。ナターリエは頭をかかえてマティアスの手紙を読み返す。
こんなふうに悩むなんて愚かだと思ったばかりなのに・・・いざとなるとやはり、彼の手紙の半分でも良いものにしたい。


先日来た初めての手紙の返事には、シエーヌの城の人たちのことをわかりやすいよう書いて送った。
マティアスはそれに触れ、とても助かったと書いている。皆の人となりを把握するのは一朝一夕にはいかないからと。
彼が知りたいのはこうしたことなのだろうか。シエーヌで生まれ育ったナターリエにとってはごく当たり前の、城のことや土地のことなど。


彼女はペンを手に取り、考え考え返事を書き始めた。