小説「光の物語」第95話 〜深雪 8 〜

小説「光の物語」第95話 〜深雪 8 〜

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深雪 8

ナターリエからの手紙を開いたマティアスは、紙の一部が空白であることを不思議に思った。
しかし読み始めると彼女が記してくれたシエーヌについての話に引き込まれた。
この城で生まれ育った彼女は、名士たちとの社交より城で働く人々との交流を好んでいたらしい。
庭師や猟師、料理人たちから聞いたシエーヌの土地の特徴、人々の誇りとするもの、下働きの子供たちの様子なども書いてくれていた。
これらはすべて、今後のマティアスにとって有益な情報だった。


ナターリエは文章が上手だし、字もきれいだし、手紙にはマティアスへの気遣いが溢れている。
彼女自身の近況も少し記されており、新しい女官のテレーザとうまくいっている様子が伺えた。
テレーザか・・・王城にいた頃の彼女に覚えがある。有能で親切そうな女官だった。
ナターリエにとっていい人選がされたことにマティアスは安堵した。


暖炉前の長椅子に足を投げ出し、彼女の便りを読むのは心が和む思いだった。
慣れない土地を管理するのは骨も折れるし、この大雪で気が滅入りそうにもなっていたが。


手紙の結びに記された追伸を読んだ時、マティアスは思わずくっくっと笑いを漏らした。
この手紙の上部が空白である理由、それが記されていたからだ。


『お手紙の上の部分に何も書いていないのは、オスカーがどうしてもどいてくれなかったからです。
この子なりのお便りなのかもしれません』


空白の形からみて紙の上に寝そべっていたようだ。
あの白猫め、可愛がられているらしいな。マティアスは手紙を眺めてそう思った。



視線を窓の外に移し、この冬のことを考える。
人々を城に招いて社交をせねばなるまい。この土地に溶け込むためにも。
この大雪で領内に何らかの被害が出ている可能性もあり、しばらくはその対応に追われることになるだろうが。


酒にダンスにおしゃべりに・・・ずっと訓練を積んできたことだ。ここでも難なくこなせる。
うまくすれば、暇を持て余した未亡人の一人や二人と知り合えるかもしれない。
冬の夜長を互いに楽しむための相手として。


そう、今までと同じだ。少しも悪くはない・・・。
マティアスはナターリエからの便りを手にしたまま窓の外を見続ける。
降り続く雪を眺め、暖炉の火がはぜる音を聞きながら、胸の奥の虚しさを彼はやりすごそうとしていた。