聖夜 1
アルメリーアは降誕祭の礼拝にナターリエを招待した。
今後に備え、修道院の外の世界に接点を見出してほしかったからだ。
まだ本格的な社交は無理だとしても、サロンや小さなお茶会から少しずつ招待するつもりだ。
これから領主として生きていくためにも、さまざまな思惑を抱いた者たちへの免疫をつけてほしい。
側近のテレーザにも導いてもらいつつ。
その話を聞いたディアルは複雑な顔をしていた。
「ナターリエ嬢が誰かと出会ってしまったらどうするんだ?せっかく・・・」
アルメリーアは苦笑して夫の顔を手で包む。
「ナターリエは早めに結婚する必要があるのでしょう?以前そうおっしゃっていたじゃありませんの」
シエーヌの領主であり女伯爵であるナターリエ。誰かと身を固めて領地に戻るのは彼女の使命だった。
「それはそうだが、マティアスがもし・・・」
「テレーザから伝え聞いたところでは、マティアス様はナターリエの結婚を後押しされているようよ。誰か良い人と出会うようにと」
「そうなのか?」
マティアスがナターリエに特別な感情を抱いているというのは、自分の希望的観測にすぎないのだろうか・・・。
ディアルの中にも迷いが生じる。
「ですからナターリエには当初の予定どおり、少しずつ社交に参加してもらいますわ」
アルメリーアはにっこりと笑う。
「そのことをマティアス様にお手紙でお知らせなさいませ。彼女が社交界に戻り、たくさんの殿方に囲まれている様子を」
「ん?」
ディアルの目がきらりと光った。
「何を企んでるんだ?奥さん」
「企むだなんて・・・ただ、ナターリエには心を決められる男性に出会ってほしいのですわ」
夫の胸に手を当てて顔を見上げた。
「もしマティアス様が本当にその気なら、王都に戻ってきてナターリエに求婚なさいますわよ」
それを聞いたディアルは笑い出した。
「あいつをあぶり出すつもりか?」
その言葉にアルメリーアも小さく笑う。
「マティアス様のお辛い経験はわかっていますけれど、ナターリエを人身御供にもできませんでしょう?あの子も傷ついているのですし」
マティアスがナターリエを思っているのかどうか、今のところはまったくの未知数だ。
彼は女性にもてる人でもあるため、まだ身を固める気などないこともありうる。
どう転ぶかわからない話のためにナターリエを待機させておくわけにもいかない。
「まあそれは・・・確かにそうだ」
ここは逆らわない方が良さそうだとディアルは思った。
マティアスが過去への思いをいつ断ち切れるか、それは本人にしかわからない。
従兄弟がその気になった時のための準備は整えられても、それ以上のことは誰にもできないのだから。
「きみが女性の幸せを願うのは仕方ないか。宮廷の女主人だもの」
彼の腕に包まれて目を閉じながら彼女は答えた。
「マティアス様にもお幸せになっていただきたいわ・・・もしも、その気があるのならね」