小説「光の物語」第155話 〜転変 11 〜

小説「光の物語」第155話 〜転変 11 〜

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転変 11

アルメリーアは父王からの手紙を立て続けに受け取っていた。
少し前に姉レナーテの動向を父に尋ねていた、彼女の手紙への返事だった。


父が知る限り、姉はブルゲンフェルトの宮廷でうまくやっているという。
国王夫妻に気に入られ、人々から慕われている様子だと。
夫のグライリヒ公とも大過なく過ごしているようだ。
もっとも姉と直接やりとりしているのは母で、父が知っているのはほとんど母から聞いた話のようだが。


かの地に駐在の使節からもこれといった知らせはないらしい。
取り越し苦労をしていたのかとアルメリーアは思う。
結局のところ姉はブルゲンフェルトで幸せに暮らしているのだろうか。


そうであってくれればいい。
アルメリーアは久しぶりに安堵の胸を撫で下ろした。


「妃殿下」
その声に振り返ると、部屋の入り口に騎士見習いのパトリック少年が立っていた。
女官に付き添われた少年は、王子妃直々の呼び出しに少し緊張の面持ちだ。
そうだわ、この件もあったのだった・・・。
アルメリーアは少年をそばの椅子に座らせ、彼の兄について詳しく尋ねることにした。



「お疲れなのではありませんか?」
一日の用事をすませ、長椅子で額に手をやるアルメリーアにばあやが尋ねる。
「今日はお忙しい一日でしたもの。少しお休みになられては?」
「そうね・・・」
ひとつ息をついて背もたれに体をあずけるが、頭の中では今日聞いた話を思い返していた。


パトリックと7歳ほど離れた二番目の兄は、ナターリエとはほぼ同い歳だった。
名前はエルマー、学ぶことが何よりも好きで、暇さえあれば本を読んでいるという。
秀才らしく、興味のあるものに出会うと没頭するたちのようだ。
『以前兄に足の骨のつくりを教えてもらいました。全然わかりませんでしたけど・・・』
とはパトリック少年の言だが、アルメリーアにもどんな話かまったく想像がつかなかった。


だがエルマーの性質はおとなしく、意地の悪いところは少しもないらしい。
それは良い知らせではないだろうか?
ナターリエは物静かな人物を望んでいたし、心優しい彼女とは相性が良さそうだ。
だが・・・アルメリーアは知らず知らず考え込んでしまう。


ナターリエは内気で本が好きだ。
だから結婚相手も静かな本好きがいい。
女伯爵であるナターリエはふさわしい者と結婚する必要がある。
貴族の次男以下がうってつけの相手だが、エルマーはシュレマー伯爵家の次男坊だ。
まさに良縁、とても理に適った話だ。



そう・・・理に適いすぎている。
それがアルメリーアには気がかりだった。
ナターリエは無理をしているのではないだろうか?
彼女の故郷への思いはもちろん理解できるが・・・。


ああ、マティアスとナターリエがうまくいけばよかったのに。
彼女は思わずそう叫びたくなる。
二人がともにいる姿はとてもお似合いだったのに。
ナターリエの頬は乙女らしい恋に紅潮し、マティアスの全身には男性的な生気が溢れていた。
きっと思いのまま幸せな夫婦になれただろうに・・・。


以前はマティアスに懐疑的だったのにと自嘲しながらも、うまく咲かなかった恋の花を惜しまずにはいられなかった。