手紙 6
「国からなにか変わった知らせはあって?」
故国のリーヴェニアから共に来た、側近の女官たちにアルメリーアは尋ねる。
王女である彼女に使える女官たちも、それぞれ由緒ある家の娘たちだった。
「ブルゲンフェルトの情勢が良くないらしいの。あなたたちの両親や兄弟姉妹から、そのことで何か・・・?」
かの国に嫁いだ姉の身をアルメリーアは案じていた。
姉とはまったく性格が違い、親しい間柄とは言えなかったが・・・。
「姫様、あまりお心をお痛めにならないでくださいまし」
隣に控えるばあやがそっと声をかける。
「姉君のレナーテ様ならご心配はいりますまい、きっと・・・あのご気性ですし」
「そうですわ。ブルゲンフェルトの宮廷でもお元気でお過ごしでしょう」
まわりの女官たちも口々に慰めた。
「ええ、そうは思うけれど・・・」
一人の女性の力ではどうにもならないこともあろう。それがアルメリーアには心配だった。
三番目の姉レナーテ。
姉兄の中で一番母に似ており、芸術に強い愛着を抱いていた。
おそらく姉は母に愛されたくて芸術に入れ込んでいたのだろう。
それは悲しいことだとアルメリーアには思われる。
まだ少女だったある日、姉を見ていてアルメリーアは決めたのだ。
自分は母の愛を追い求めない。芸術に励むのもやめると。それは子供心に寂しい決心ではあったが。
その代わりに自分らしくいられるものを愛すると決めた。
愛する価値のあるものを。
「もし何かわかったら教えてちょうだい。たとえよくない話だとしても・・・」
アルメリーアの言葉に皆は無言で頭を下げる。
隣国の情勢悪化は、かの国に関わる人々のみならず周辺諸国にも影響を及ぼそう。
大きな波乱にならなければよいのだが・・・。
「それから・・・そうね、宮廷の誘惑者たちのことは何かわかったかしら?一番の不届き者は誰?」
軽めの話題に切り替えるアルメリーアに女官たちもほっとしたようだ。
「お任せくださいませ。あちこちで噂を聞き込んでまいりましてよ。まずは・・・」
女官たちはそれぞれの調査結果を披露し、アルメリーアは興味深く耳を傾けた。