小説「光の物語」第10話 〜春 2〜

小説「光の物語」第10話 〜春 2〜

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いくつもの塔を持つその城は湖の小島に建てられていた。
白く輝く城壁は湖に姿を映し、城を囲むように植えられた木立は風をはらんで枝を揺らしている。
「まあ、なんて美しい・・・」
馬車の窓から見えてきた眺めにアルメリーアは息を呑んだ。


城に到着しても、アルメリーアはすぐに中に入る気にはなれなかった。
「お庭を見たいですわ。きっと素晴らしいに違いありませんもの」
愛妻の願いにディアルは頷き、彼女を庭園へと案内する。
彼女の予想通り庭園には春の花が咲きこぼれ、引き入れられた水路には数羽の白鳥が浮かんでいた。


「まあ・・・」その光景に息を呑んだ彼女は、魅入られたかのようにふらりと前に歩み出し、しばらく言葉もなくあたりを眺める。
そして「なんて素敵なのかしら」と、はじけるような笑顔で振り返った。
「・・・ああ、美しいな」
「美しくて・・・愛らしくて・・・この世のものではないみたい・・・」
「ああ・・・」彼はまるで上の空のように彼女の言葉に答えていた。


ここは城内では小ぢんまりとした庭だが、母をはじめ代々の王妃たちにこの場所が特に愛され、丹精されてきたのをディアルは知っていた。
だから、きっとアルメリーアも気に入るだろうと思ったのだ。
果たしてその通りになったが、屈託なく喜ぶ彼女の姿に自分のほうがおかしくなってしまった。


二人はディアルのエスコートで園内をぐるりと一周したが、彼女はまだ立ち去りがたい様子だ。
「もう少しここにいよう」と告げるディアルの頬にアルメリーアはキスをする。彼は好きなだけ見ておいでと笑った。



彼女は一人、夢見るような足取りで色あざやかな花の波間を歩いている。


陽だまりの庭に天から舞い降りたような彼女の姿を、彼はただぼんやりと見つめていた。