小説「光の物語」第30話 〜降誕祭 7〜

小説「光の物語」第30話 〜降誕祭 7〜

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降誕祭 7

冬の社交が本格的に始まった。
大広間に集まった諸侯たちはあちこちで輪を作り、噂話に花を咲かせていた。


美しく装ったアルメリーアは諸侯たちの挨拶に言葉を返しつつ、大広間全体を見るともなく見る。
ディアルは少し離れたところで新しく到着した一団と談笑している。
お上手を聞き続けた彼女は、笑顔を浮かべながらもさすがに疲れを感じ始めていた。


「妃殿下」
声をかけてきたのはマティアスと、彼に連れられた行儀見習いの令嬢、クリスティーネだ。
「まあ、めずらしい取り合わせね」微笑みかけたが、クリスティーネは何やら気まずそうな様子をしている。「どうしたの?」
マティアスは笑みを浮かべたまま、王子妃づきの女官にクリスティーネをあずけて下がらせた。


「マティアス様?」
戸惑うアルメリーアにマティアスは告げた。
「あの柱の近くにいる男ですが」マティアスが大広間の反対側にいる青年を視線で示すと、気づいた男は慌てて手近な扉から出ていった。
「あまり評判のよくない人物です。未婚の令嬢には近づけない方がよろしいかと」


つまり、あの男に言い寄られていたクリスティーネをマティアスが助けたのだと思いあたった。
無防備なクリスティーネは不心得者にとってたやすい獲物だろう。
彼女を預かっている立場のアルメリーアにとってもそれは避けたい事態だった。


「ありがとう、マティアス様・・・」
マティアスの意外に保護的な一面に触れ、アルメリーアは心温まる思いがした。
「あまり野暮なまねもしたくはありませんがね・・・」
彼は小さな声で自嘲気味に口にした。