小説「光の物語」第78話 〜冬陽 5〜

小説「光の物語」第78話 〜冬陽 5〜

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冬陽ふゆび 5

数日後に迫るクリスティーネの婚礼に出席するか、ナターリエはいまだに悩んでいた。
婚礼は王都の大聖堂で行われることになっている。
この修道院からも近いところだから、出席するならばただそこへ行けばいいのだ。
そしてクリスティーネにお祝いを伝えれば。
それだけのことなのに、外に出ることへの漠然とした怖さが拭えない。


「ナターリエ様、これはなんて読むの?」
彼女が読み書きを教えている少女の一人、ニーナが横から聞いてきた。
「ナターリエ様、私も、私も教えて」
他の少女たちも口々に声を上げる。


ナターリエたちがいるのは王立修道院の図書室だ。
修道院の中でもひときわ立派な部屋で、数多くの蔵書を取り揃えている。
付属の慈善病院の図書室も兼ねているため、医学に関するものも多かった。
「はいはい、順番にね」
悩む暇をなくしてくれる子供たちはかえってありがたい。
彼女たちの質問にナターリエは丁寧に答えていった。


勉強の時間が終わり、少女たちと図書室から出たところで修道女から声をかけられた。
「ナターリエ様、お客様ですよ」
そのうしろには修道女に案内されてきたマティアスが、何やら茶色の包みを抱えて笑顔で立っている。
「やあ、大変な騒ぎですね」
勉強から解放された少女たちははしゃいでじゃれあい、特にナターリエに懐いているニーナは彼女にしがみつくようにくっついていた。


マティアスの姿にナターリエは目を見開く。
「まあ・・・シエーヌからお戻りに?」
「ええ、少し用事ができまして。それがすめばまたとんぼ返りです」
応接室に通されながらマティアスは答える。
「あなたたち、少しは静かになさい、もう・・・」
案内を終えた修道女は子供たちをなだめながら下がっていった。


椅子にかけたマティアスはナターリエを見て微笑む。
「少し背が高くなられましたかな?」
「え・・・そうでしょうか?」ナターリエは少し驚いたように答える。
「ええ、ほんの数ヶ月なのに変わるものですね。先日よりも・・・」
やつれていた頬や体に少し丸みが戻り、女らしく大人びた風情だ。
「・・・お元気そうですよ。安心しました」
その言葉を聞いたナターリエは口元に控えめな笑みを浮かべた。


「子供たちに勉強を?」
「ええ。この修道院に預けられた子たちですの。まだあまり字が読めない子も多くて・・・」
「あなたが教えればすぐに覚えますよ。パトリックもそうでした。教えるのがうまいんですね」
「そんな・・・」ナターリエは恥ずかしそうにうつむいた。
「それに子供たちに好かれるようだ。優しさが伝わるんでしょう」
先ほどみた光景・・・年端もいかぬ少女がナターリエにまつわりついていた・・・をマティアスは思い出していた。


その優しさが、相手が悪ければ仇となるのだろうか・・・。
苦い失恋の記憶からそんなことを思いつつ、ナターリエはマティアスの言葉に感謝の笑みを返した。