小説「光の物語」第41話 〜新年7〜

小説「光の物語」第41話 〜新年7〜

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新年 7

「それで、ナターリエ嬢は少しは打ち解けたのかい?」ディアルは尋ねた。
「ええ。本のお話をするうちに少しずつ」
嬉しそうに話すアルメリーアにディアルも笑みを返す。
自室の長椅子に並んで座り、その日あったことを二人はくつろいで話していた。


「母君に毎日辛く当たられているようで・・・お気の毒だわ」
アルメリーアは夫の肩に頭をつけてつぶやく。
「母君がそんなふうに振る舞っていては娘の縁談も進まないだろうにね。どんな男も一目散に逃げ出すよ」
とディアルは笑ったが、ふとあることを思い出す。


「たしか、父親のベーレンス伯爵は年明け早々領地に戻っているね」
領地運営の用件ということだったが、辞去の挨拶に来た際のベーレンスはどことなく落ち着かない風情だった。
「王城の滞在ももう数ヶ月だ。娘の縁談が思うようにいかず、両親とも業を煮やしているのかな?」
「それはわからないけれど・・・」


考え込んだ様子の妻をディアルは抱き上げ、自分の膝に座らせる。
アルメリーアの表情はなごみ、彼の首に腕を回した。
「せめてナターリエ嬢が王城にいる間は、できるだけ気楽に過ごせるようにしてさしあげたいわ。パトリックの恩人でもあるし」
ナターリエは騎士見習いの少年パトリックに字や文章の書き方を教えてやり、そのおかげで彼は故郷の母と文通ができているのだった。


「パトリックね」ディアルは小さく笑う。「あいつはきみに憧れているらしい。お嫁さんはリーヴェニアで探すと言っていたよ」
それを聞いた彼女の笑顔に見とれながら彼は続けた。


「ナターリエ嬢を気にかけるのはいいことだが、行儀見習いのクリスティーネ嬢もいるだろう?体がいくつあっても足りなくなるよ」彼女の顎の線に指を這わせる。
「クリスティーネはもうだいぶお話が進んでいますもの。ご両親もとても喜んでらして」ふと言葉を止める。「でも、お相手のラッツィンガー家はもともと外国の家系だから、慣習が違って大変そう。この間も・・・」
ディアルがそっと彼女の唇に唇を重ね、話は途中で途切れた。


しばらくして唇を離した夫に、彼女は力の抜けた声で尋ねる。「どうしたの・・・?」
「きみを見ているとキスしたくなるんだよ」微笑みかけながらもう一度キスをする。「話は続けてくれ。ちゃんと聞いてるから」
そう言われても、彼の膝の上で顔中にキスをされて考えがまとまるはずもなかった。


「婚礼の前の日にキスしたのを覚えている?」
耳元で尋ねられて彼女は目を閉じた。「ええ・・・」
「あの時もそうだった。きみのばあやには随分怒られたけどね」笑い混じりの首筋へのキスに彼女は身を震わせる。「それに・・・」
二人だけの秘密の記憶を囁く彼の声に、アルメリーアは話をすることも、考えることも忘れてしまった。