小説「光の物語」第44話 〜胎動3〜

小説「光の物語」第44話 〜胎動3〜

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胎動 3

砲兵隊の視察を終えたディアルは、マティアスや砲兵隊長のノイラート、その従者のゲオルグとともに、城の回廊を歩きながら打ち合わせを続けていた。


「王子妃殿下のお帰りでございます」
先触れの声とともに、華やかな一行の姿がディアルの目に入る。
彼は連れから離れ、回廊に入ってきた妻を出迎えた。


「まあ、ディアル様。ここでお会いできるなんて」
夫の姿にアルメリーアは花が咲いたような笑顔を見せる。
「よく戻ったね。その顔からすると、どうやら初の単独公務は上出来だったようだ」
と彼女を抱き寄せた。


「病院の患者たちと話せた?」
「ええ、医師や看護人たちとも」
「そうか。アーベルのばあやは?」
「とてもお元気そうでしたわ。あなたにくれぐれもよろしくと」
彼女はそこで言葉を切り、微笑みを浮かべたままじっと彼の顔を見つめる。
「どうした?」
「いいえ・・・ただ、お顔が見れて嬉しくて」
その言葉に彼の表情はゆるみ、愛妻に軽くキスをした。


控えている家臣たちを振り返ると、マティアスが一歩進み出て頭を下げる。「妃殿下にはご機嫌麗しく」
いつもの笑みで頭を下げるマティアスに、アルメリーアも親しみを込めて微笑んだ。「マティアス様、ごきげんよう」


「彼らに会うのは初めてだな。砲兵隊長のフランツ・ノイラートと、従者のゲオルグだ」とディアルが紹介する。
「妃殿下、お目にかかれて光栄でございます」
深々と一礼する二人にアルメリーアは笑顔で頷いた。「ご活躍を期待しています」
「では王子妃を部屋まで送ってくる。話はまた後で」
王子夫妻は互いの腰に腕を回して歩いていった。


去っていく二人を見送りながらノイラートが思わずつぶやいた。「なんとも魅力的な妃殿下ですな。じつに美しい」
「たしかに」ふだんは謹厳実直なノイラートの言葉にマティアスがにやりとする。
「それにまことに仲睦まじいご様子。私も自分の新婚の頃を思い出しますよ」とノイラートも笑った。
「殿下はもうめろめろですね」ゲオルグも口をはさむ。「美しくてお金持ちの王女様がお妃ですか。いやあ、羨ましいかぎり・・・」
「おい、口を慎め」ノイラートが素早くたしなめる。
「ま、ご正室と睦まじいのはめでたいことだ。おかげで隣国との同盟も安泰だしな」マティアスがさりげなく釘を刺す。「さて、つぎの仕事の準備に取り掛かるか」
その言葉を皮切りに、男たちは会議室へと歩き出した。