胎動 11
何度目かのため息がもれる。
光あふれる温室で色とりどりの花を眺めながらも、アルメリーアの心は晴れなかった。
ナターリエの相手は良くない男だという。
辛い毎日を送る彼女がようやく見つけた恋だというのに。
どうして彼女ばかりがそんな不運に・・・。
そして、彼女にはもう一つ悩みがあった。
このところずっと望みながら、思うにまかせないことが。
それは・・・。
「リーア」
振り返ると、すぐ後ろにディアルが立っていた。
「まあ・・・どうなさったの?こんなところに」
思わぬ喜びに口元がほころび、彼に腕を回して寄り添う。
「きみがここにいると聞いて寄ってみたんだよ。昨夜は少し沈んでいたようだったから」
彼の腕に抱き寄せられ、アルメリーアは目を伏せる。
「大丈夫です。ただ・・・」
「結婚してまだやっと一年だよ。私は城を空けることも多かったし、焦ることはないよ」
昨夜からアルメリーアは月のものが始まった。
それは今月も身籠らなかったということで、彼女は少なからず落胆していた。
「わかっています・・・」
わかってはいるが、望みは日ごとに増してきていた。
彼の子どもを宿したいし、彼に喜んでもらいたい。
「自然にまかせていれば大丈夫だよ。我々は努力を重ねているんだし・・・そうだろう?」
額をくっつけて、彼女の目をいたずらっぽく覗き込む。
「もう・・・」
そんなふうにされると彼女は笑顔を返すしかなかった。
彼女の笑みに安堵した彼は顔を上げて温室の中を見渡す。
「ここにはあまり来たことがなかったが、美しいところだね」
「ええ。異国のお花もたくさん・・・あのあたりに」ひときわ色鮮やかな花々を手で示す。
「ふうん、食べられるのかな?」
「食べ・・・」思わず絶句した。「そんなにお腹が空いているの?」
ディアルは自嘲気味に笑い出した。
「さっきまで有事の食糧を協議していたものだから・・・無粋な男ですまないね」
彼女の唇に軽くキスをする。
「きみは以前芸術家にはなれないと言ってたけど、私も詩人にはなれそうにないよ」
彼女の顔にゆっくりと微笑みが広がる。
「あなたは詩は作らないけれど、あなたのなさることはとても詩的だわ」
「ん?」彼女の笑顔に彼も微笑んだ。
「詩人よりも、あなたは素晴らしい庭師になれますわ・・・とても良い目を持って、繊細な手入れをなさる方ですもの」彼の頬にそっとキスをする。
「そう?」きれいに結った髪を崩さないよう、彼女の頭を手で包む。
「ええ。あなたはそれぞれの花を見きわめて、必要なものを与えるはずです。きっと、どんな花も咲かせられますわ」
「だとしたら、花が好きな奥さんは私にうってつけだね」
彼女の頬を両手で包み込む。
「私の手柄かどうかはわからないが、この花はたしかに美しく咲いているようだ」
そうして彼女の唇に唇を重ねた。
アルメリーアはあたたかな春風に包まれる心地がした。
彼こそが彼女にとって土であり、水であり、陽射しであり、生きるために必要なすべてだった。
この人をもっと幸せにしたい。その想いで涙があふれそうになり、彼女はかたく目を閉じてキスに応えた。