小説「光の物語」 番外編 贈り物

小説「光の物語」 番外編 贈り物

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小説「光の物語」 番外編 贈り物

「わあ、食べたい」
「私も、私も」
外出から戻ったナターリエの贈り物に少女達は大はしゃぎだった。
「そんなに興奮しないの、ちゃんとみんなにあるから」
子供達の反応にナターリエは笑ってそう言った。


「ナターリエ様、どこへ行ってたの?」
切り分けてもらったパイを食べながら少女の一人が聞く。
「広場のマーケットよ」
「どうして?」他の少女が尋ねる。
「どうして?」もう一人も加わる。
「私も行きたい。ナターリエ様、こんど私も連れてって」
その場にいる少女達が一斉に同じようなことを言い出し、ナターリエは騒がしさに苦笑した。


「わたし知ってる。ナターリエ様を迎えにきた騎士がいらしたのよ。ナターリエ様、あの人のお嫁さんになるの?」
ナターリエにひときわ懐いている少女のニーナがそう言った。表情はなんだか不安そうだ。
「ま、まあ・・・」ナターリエは思わぬ問いに絶句する。「なんてこと言い出すの。おませさんね」
「あ、ナターリエ様赤くなった!」
「お嫁さんになるんだ!」
「お嫁さん、お嫁さん」
子どもたちはますます騒ぎ出し、ナターリエは頭が痛くなってきた。


困ったナターリエは、もう一つの包みを出して子供達の前で開いた。中には砂糖ぐるみのアーモンドが入っている。
「・・・これ、なあに?」
ナターリエは答えず、そう聞いた子に微笑みかけて中身を人数分に分けだした。
「お菓子だ!」
「お菓子!」
「私もほしい」
「そのピンク色のが食べたい。ねえ」
子供達は騒ぐが、ナターリエが黙って作業を続けるうちに静まった。
お菓子をもらうにはそうするのが得策と悟ったのだ。


しばしの沈黙ののち、再びニーナが切り出した。「ナターリエ様、いなくなっちゃうの?」口元が泣き出しそうに震えている。
それに気づいたナターリエは、困ったような笑みを浮かべてニーナの頭を撫でた。「そうね・・・いずれはここから出ないといけないでしょうけど・・・今すぐではないわ」
「お嫁にいっちゃうの?」
「そうではなくて・・・故郷に戻らないといけないのよ。ここからはとても遠いところなの」


誰かふさわしい者と結婚し、故郷に戻って領主として過ごす・・・それがナターリエに定められた未来だが、いまだに現実味がない。
それよりもここでこうして過ごす方がずっといいように思えた。修道女になって・・・。


「あの人と一緒に行くの?」
あの人とはさっき話したマティアスのことを言っているのだろう。
「あの方はとても偉い方なのよ。いまは私の故郷を守ってくださっているの。それだけ」
「ふうん・・・」
よくわからないなりにニーナも落ち着き、ふたたびパイを食べ出した。


ほっとしたナターリエの足に何かやわらかいものが触れる。
彼女の帰りに気付いた白猫が体をこすりつけて挨拶したのだ。
「ただいま」
ナターリエは嬉しそうに微笑み、猫のおなかの下に手を入れて抱き上げた。


「ほら見て。あなたにそっくりでしょう?」
そう言って襟元のブローチを見せるが、白猫はふんとむこうを向いた。
その様子に彼女は笑いを誘われる。


あらためて周りを見回したナターリエは、この場所と、少女たちと、白猫と・・・マティアスがもたらしてくれた贈り物たちに自分が守られているのを感じた。