小説「光の物語」第140話 〜王都 26 〜

小説「光の物語」第140話 〜王都 26 〜

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王都 26

各地の責任者を集めての会議は終わりに近づいていた。
国王の執務室にはディアルとマティアスと数名の重臣が集まり、会議を通して見えてきた課題を協議する。


工事の遅れを取り戻す追加人員をどう配置するか。
遅れの原因である流行病は近隣諸国一帯に降りかかったが、地域によって被害の大小があるのはなぜか。

さらには流行病で亡くなった砲兵隊員もおり、その補充も必要だった。
しかし弾薬の扱いに長けたものを育てるのは一朝一夕にはいかない。



「ノイラートにそこまで求めるのは酷であろう」
国王の言葉にディアルも頷く。
砲兵隊長のノイラートには持ち場での作業があり、有事となれば出動もあるのだ。
「前隊長のエクスラーを呼び戻せないでしょうか」
ディアルは父王に提言する。
エクスラーは数年前に砲兵隊長職から退き、現在は隠居生活を送っていた。


「どうかな。エクスラーは自ら勇退したのだぞ。旅の多い砲兵隊づとめはもう無理ゆえと」
「ええ。しかし彼の知見を眠らせておくのは惜しい。教練場の監督としてならば」
「ふむ・・・」
国王は髭を撫でて呟く。
「うまくすれば、エクスラーも隠居暮らしに飽いた頃かもしれぬな。口説いてみるがよい」
国を挙げての道路工事と土地整備の間にも考えねばならぬことはいくらでもあった。


「国内の衛生観念も底上げしたいものです。今回の流行病を教訓に」
マティアスも話に加わる。
今回集まった人々と話すうち、地域の衛生にかなりの差があることに彼は気づいた。
それが各地の被害の大小につながっていたと。
「それもだが、医療者の数も増やしたいところだな。ひとたび今回のような事態になればすぐに人手が足りなくなる」
国王の言葉にマティアスも同意する。


「父上、つまり医学校を増やされたいと?」
「そうだな、いずれ。医学に看護に工学に・・・あらゆる分野の学校を」
「それにはかなりまとまった資金と、土地も必要になりますが・・・」
遠慮がちに言葉を挟む財務官に王は笑った。


「ああ、今すぐにとは言わぬ・・・だが国をあげて知識を集積すれば、いずれそこから新たな産業も生まれよう」
「国力が向上し、外貨も稼げます」
マティアスの言葉に国王は頷いた。
「その通り」


「衛生状態を上げて幼い死者を減らすことは、その一助になるかと」
そう口にするマティアスの脳裏をふとナターリエの姿がよぎる。
幼い者たちの学びを助けたい、そう言っていた彼女の姿が。
「まったくだな。国の将来にとっても益でしかない。そのためには・・・」
国王の頭は一刻も休むことなく、より良き未来に向けて働いているようだった。



協議を終え、国王の執務室を出るマティアスの胸は高揚していた。
この国の未来はきっと明るい。
国王の名君ぶりは言うまでもなく、後を継ぐディアルもきっとそうなるだろう。
彼らのため、未来のために尽くすのはなんと甲斐のあることだろうか。


この湧き出るような興奮をナターリエに話したい・・・マティアスはそう思う。
ディアルでも他の誰でもなく、ナターリエに話したいと彼は思った。


「マティアス様」
その時、回廊の影から小さく彼を呼ぶ声がした。
振り返ると、そこにはナターリエの侍女、テレーザが立っていた。