小説「光の物語」第53話 〜出奔 1〜

小説「光の物語」第53話 〜出奔 1〜

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出奔 1

「それでどこへ行くの?」
「王立修道院へ・・・」
ディアルに意味ありげな目で見られ、アルメリーアはなんとなく居心地の悪い思いをする。
彼女は伯爵令嬢ナターリエを誘っての外出を考え、それを自室で夫に話したところだった。

 

「あそこなら静かですし、大きな図書室もありましたから」
「そうだね。近くだし、アーベルのばあやもいるし。行き先としては申し分ない」
「・・・でも、あまり賛成されませんの?」
ディアルは困ったような笑みを浮かべると、軽く屈んで彼女をまっすぐ持ち上げた。
急に抱き上げられたアルメリーアは小さな声をあげる。

 

「入れ込みすぎじゃないか?どうしてそんなに彼女が気になるの?」
彼の腕に座るような格好で下から見上げられ、彼女は思わずどきりとした。
「そんな・・・大したことをするわけではありませんもの・・・」
夫に話すことではない気がして、ナターリエの恋愛のことは言わずにおいた。

 

 

ナターリエの恋人の悪評を聞いて以来、アルメリーアは心を痛めていた。
彼女に傷ついてほしくはないが、だからといって自分が口出しするわけにもいかない。
実際どれくらいの仲なのかもわからないのだし・・・。

 

ナターリエが遊びの恋などするとも思えないが、真剣なのだとしたら余計に口出しなど逆効果だろう。
それよりも彼女の恋人が留守の間、何か別のことに目を向けてみてはと思ったのだ。

 

『どう思って?』
ばあやに相談すると、彼女も同意見だった。
『良いお考えかと存じます。若いお嬢様は思いつめがちでございますからね・・・それでご令嬢の評判に傷でもついては』
ナターリエと恋人の密会を見てしまったばあやも案じているようだ。

 

『それに少し母君と離れるのも、あの方には息抜きになるのでは?』
『そうね・・・』
そもそもの初めにナターリエを誘おうと思ったのもそのためだったのだ。
先日注意して以来ベーレンス夫人が娘をいじめる光景は見ないが、そうはいってもやはり気詰まりだろう。
それにしても、ベーレンス伯爵はこの妻子をいつまで放っておく気なのか・・・?

 

『よろしければ、女官たちにそれとなく探らせてみましょう。先日のあの青年について。たしか砲兵隊長の従者とか・・・?』
『ええ・・・そうね、お願い。名はゲオルグ・マイヤーというそうよ』
『かしこまりました』

 

そんなやりとりの結果、今こうしてディアルに話しているのだが・・・。

 

 

「きみの注意で母君は行動を改めたんだろう?それで十分に務めは果たしているよ」
「ええ、でも・・・」頬に頬を寄せられて彼女は目を閉じる。
「優しい妃殿下、背負いすぎてはいけないよ。そうでなくてもきみは公務で忙しいんだ」彼女の頬にキスする。
「わかっていますわ。ただ、少し彼女に息抜きを・・・」
ディアルはそれを聞いてくすりと笑った。

 

「行ってきたらいいさ。そうしないと気が済まないようだからね。ただし・・・」
「ただし?」
「きみの寂しがり屋の夫のことを忘れないでくれよ。あまり遅くならずに戻ってくること」
「まあ・・・」アルメリーアは微笑み、彼の額に額をつけた。「甘えん坊さんね」
「ここだけの秘密だけどね」彼女の唇に軽くキスをする。「愛しい人。きみがいないと私の世界は暗闇だ」
「それは・・・私だって同じだわ」

 

キスを通して互いの思いが行き交い、二人は甘いため息をついた。