小説「光の物語」第83話 〜晴明 2〜

小説「光の物語」第83話 〜晴明 2〜

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晴明 2

「ナターリエ様・・・」
婚礼の日、聖堂でナターリエと顔を合わせたクリスティーネは感極まって泣き出した。
というより、その日は朝から泣き通しと言う方が近かったが。


「よく来てくださったわ、本当に・・・」
自分にしがみついて喜ぶクリスティーネに、ナターリエも思わず涙が出てしまう。
「クリスティーネ様、おめでとう・・・とってもお綺麗よ」
花嫁衣装に身を包んだ友人に心から祝いを述べる。


雲一つなく晴れ渡ったその日、クリスティーネとリヒャルトの婚礼は滞りなく執り行われた。
大聖堂には王子夫妻をはじめ錚々たる来賓が揃い、会場も広場も華やかに飾り付けられていた。
出席者のみならず都の人々からも祝福された新郎新婦はこの上なく幸せそうだ。


祝宴は王城に場所を移して行うことになっている。
婚礼だけのつもりだったナターリエだが、クリスティーネにぜひと請われては帰りづらかった。
「よろしいでしょうか?」
エスコートしてくれるマティアスに遠慮がちに尋ねる。
「もちろん、かまいませんよ」
マティアスは答え、彼女とともに王城へと向かう。
ディアルに質問攻めにされるだろうなとは思ったが、この際ぼやきは封じることにした。



王城の広間は大聖堂に負けず劣らず華麗に装飾され、テーブルにはご馳走がところ狭しと並べられていた。
招待客たちは新郎新婦の登場に沸き、祝福の声と乾杯とが延々と繰り返される。
やがて歓談の時間になったころ、声をかけてきたアルメリーアとようやく落ち着いて話をすることができた。


「ナターリエ、今日は来てくれて本当によかったわ。最近はどう過ごしているの?」
マティアスは王子とともに何かを飲みに行き、ナターリエは王子妃と椅子にかけて語り合う。
「王立修道院で皆様に良くしていただいています。小さな子どもたちの勉強をいまは見ていて・・・」少女たちを思い出して小さく笑みを浮かべる。「みんなとても可愛らしいんです。一緒にいると元気をもらえますわ」
「そう・・・よかったこと。あそこでの暮らしが肌に合うようね」
アルメリーアは思いやりのこもった笑みを向けた。


「どうかしら?これからはときどき王城にも顔を出しては」ナターリエの様子を気遣いつつ切り出してみる。「冬は社交の季節ですもの。ふさわしい方と出会うためにも・・・」
ナターリエは悩みの種の話題に下を向いてしまった。
結婚は爵位を継いだ自分の務め。
しかし・・・この件をどうしたらいいのだろう。


「私・・・皆様には言葉にできないほど感謝しております・・・」
その言葉にアルメリーアは彼女の手をそっと握る。「そんなことはいいのよ」
その優しい感触にナターリエは慰められたが、蓋をした願望が揺さぶられるようでかえって辛くもある。
「でも、私・・・自分がどなたかと出会えるとは思えないのです。とても・・・」
「まあ・・・どうしてそんなことを?」


「私にはたぶん・・・殿方を見る目がないし、自然にしていて良い殿方に好かれることもないのですわ」
「ナターリエ・・・」
彼女の言葉にアルメリーアは胸を痛めた。これはゲオルグの一件がかなり尾を引いているようだ。純真な娘があんな目に遭っては無理もないが・・・。
「以前は妃殿下やクリスティーネ様を間近で見て、恋に憧れてしまったのです。でも、あんなことになって・・・」
声をつまらせて俯き、目線をそらして続ける。
「恋なんて・・・恥でございます。私にはきっと無理なのですわ・・・。お相手のことは、陛下と両殿下にすべてお任せいたします。皆様が喜んでくださる方であれば・・・」
あまりに寂しい言葉を聞いたアルメリーアは言葉がなかった。


貴族の娘にはそもそもあまり選択肢がない。
アルメリーア自身も国同士のつながりのために嫁いできた身で、ディアルが素晴らしい夫なのは幸運以外のなにものでもなかった。
それでも、この国に来る時には不安とともに期待も抱いていた。
ナターリエにもすべてを諦めることはしないでほしいとアルメリーアは思った。