小説「光の物語」第133話 〜王都 19 〜

小説「光の物語」第133話 〜王都 19 〜

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王都 19

「まあまあ、何と・・・」
夜会の翌日、修道院の居間でナターリエの話を聞いたアーベルは笑いに肩を揺らした。
「よくやられましたわ、ナターリエ様」
テレーザは、ナターリエが一人でブリギッテを追い払う作戦を決行したことを讃える。
「褒められたことではないにしても、火の粉を払わねばならぬ時もありますし・・・結局のところは彼女の自業自得ですものね」
アーベルもそう苦笑した。
「なぜか急にそうしようと思ったの・・・でも、本当にうまくいくなんて」
ナターリエは自分でも驚きつつ、思い出すと笑わずにはいられない。


「でも少し気がかりだわ。もし彼女が本当に遊び人を好きになったら・・・」
誘惑者に失恋する辛さを知るナターリエは危ぶむ。
「ご心配には及びますまい。あの二人は言うなれば曲者同士ですもの。お互い食えない毒りんごだとすぐに気づきますわよ」
テレーザは清清した様子で答えた。
「だといいけど・・・」
なおも案じるナターリエにアーベルも言う。
「テレーザの言う通りでしょう。まあ、まかり間違って二人が結ばれるようなことがあれば・・・」天を仰いで続ける。「地獄もかくやという家庭になることでしょうね」
その言葉にナターリエは吹き出し、三人はなごやかに笑い声を立てた。



その後、図書室で本を読みながらナターリエは思う。
マティアスはブリギッテの性質をすぐに見抜き、対策するようにと教えてくれた。
きっと人を見る目があるのだろう。
王族の一員である彼だから、宮廷で多くの人と接するうちに自然とそうなったのかもしれない。


自分もいずれはそのようになれるのだろうか?
彼は言っていた。これから領主として生きていくためにも、それなりのやり方を身につけるのは大切なことだと。
もしかしたら本での勉強以上に。


「ナターリエ様、何を読んでるの?」
彼女に懐いている小さなニーナが横から覗き込んでくる。
ニーナは先日の流行病以来、看護人になりたいと勉強に励むようになっていた。
最近は読み書きも格段に上達し、別の科目にも取りかかり始めている。


「家畜のことを書いた本よ・・・シエーヌでも大事な産業だから、少しは知っておかないと」
そうは思うものの、これまで全く無縁だった話はなかなか頭に入らない。
本音をいえばもっと楽しい物語でも読みたいところだが、苦戦しつつもとにかく目を通していた。


「シエーヌ・・・」
ニーナはぽつりとそう言い、寂しそうに黙り込んでしまった。
いずれナターリエは故郷であるシエーヌに戻る。その時にはニーナとも離れ離れに・・・。
親と縁の薄いニーナは子供ながらに来るべき別れを察しているのだろう。
寂しさを小さな胸に抱えこむニーナの様子にナターリエも切なくなる。


ニーナの父は生きてはいるが、娘に関わる気が全くないのは明らかだ。
看護人になりたいというニーナの可憐な夢は叶えられるのだろうか?
自分にもそれを助けることはできるのだろうか。
ナターリエは以前王子妃と話した時のことを思い出し、幼い者たちの未来に思いを馳せた。