小説「光の物語」第42話 〜胎動1〜

小説「光の物語」第42話 〜胎動1〜

スポンサーリンク

胎動 1

厳しい寒さは緩み、春の気配を感じる季節になった。
王都を往来する人々も増え、あらゆる活動がふたたび活発になりはじめる。



「妃殿下、本日はよくお越しくださいました。入院患者たちも感激しております」
もと王城の女官長で、いまは王立修道院の監督を務めるアーベルが礼を述べる。
「妃殿下のお優しさとお美しさに、皆もう夢中でございましたよ」
王立修道院には付属の慈善病院があり、そこへ慰問するのがアルメリーアの初めての単独公務だった。
王城からも近く、もと女官長が監督を務めるその場所はなにかと都合がよかったからだ。


「ありがとう。あなたの尽力があってこそですわ。今日が初めての一人での公務ですもの」
慰問を終え、修道院内の応接間に落ち着いたアルメリーアは礼を述べる。
もちろん女官や護衛はついているが、ディアルなしでの公務に少し緊張があったのも事実だ。
「それに、あなたにまた会えるのを楽しみにしていましたのよ。お元気そうでとても嬉しいわ」


自分に微笑みかける王子妃を見て、アーベルはしみじみとため息をつく。
「ほんとうに・・・これでは殿下が熱愛なさるのも道理ですわね」
思いがけない話題にアルメリーアはぽっと頬を染めた。「まあ、どうしたの?急に・・・」
「お顔を見ればわかりますよ、妃殿下はご夫君から深く愛されておられると・・・王子殿下の母君、へレーネ王妃様もそうでございました」
アーベルは先の王妃へレーネが子供の頃から仕え、育てた身だった。


「そう、王妃様が・・・。素晴らしいお方だったと聞いていましてよ。殿下からも、ほかの方々からも」
「ええ。とても快活で美しいお方でした。国王陛下とは幼なじみでいらして」
初めて聞く話にアルメリーアは興味をそそられた。


「そうでしたの。では、お二人は初恋のお相手?」
アルメリーアの問いにアーベルは頷いた。
「はい。へレーネ様の兄君は陛下の学友でいらしたので、その縁で知り合われたのです。それ以来陛下は・・・当時はまだ王子でしたが・・・何かにつけてへレーネ様のところに立ち寄られて」
当時を思い出してアーベルが笑う。
「ご結婚後もそれは睦まじくお過ごしでしたが、へレーネ様が早くに亡くなられたのだけが残念で・・・」


アーベルは悲しげに言葉を途切らせたが、ふと我に帰ったように言葉を継いだ。
「失礼いたしました。つい昔話など・・・年寄りの悪い癖でございますね」
「そんなこと少しもないわ」
実際、ディアルの両親の話は彼女にとって興味深かった。恋にまっすぐな彼の気性は、どうやら両親ゆずりらしい。
「せっかくお越しいただいたのですから、修道院をご案内いたしませんと。こちらは貴族の令嬢が主に入られるところですので、ふさわしい教育が受けられるよう図書室もございますし、教師も・・・」
説明を聞きながらアルメリーアは夫を思い、早く会いたい気持ちを募らせた。