小説「光の物語」第156話 〜転変 12 〜

小説「光の物語」第156話 〜転変 12 〜

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転変 12

ディアルは従姉妹のミーネからの便りを受け取っていた。
彼女は隣国ブルゲンフェルトの暮らしに不安を抱き、亡命を希望している。
最近の隣国王の疑心暗鬼はひどくなる一方で、有力貴族やその子弟への監視を強めているらしい。
国王の思いつきで一家はどんな憂き目に遭うかしれず、彼女は深く案じていた。


駐在の使節から届く報告を見ても、隣国王の行状は明らかに常軌を逸している。
ミーネの不安もありそうなことだ。
だがミーネの夫のアンゼルム公は隣国宮廷の実力者、全てを捨てるのは彼にとってあまりに大きな決断だろう。


しかし、もはや迷う時期は過ぎたようだ。
ディアルはミーネ一家に救出の使者を派遣することにした。


マティアスからも手紙が届いていた。
調査が専門のマティアスだけに報告は詳細だ。
隣国王が処刑させた貴族は大物揃いで、それを見るだけでもかの王の錯乱ぶりが伝わってくる。
王太子のみならずこれだけの人材を一度に失ってしまって、隣国はこの先どんな混乱に陥ることか・・・。


手紙にはかの国に嫁いだ姫君方のことも記されていた。
やはり皆薄氷を踏む思いで過ごしているようだ。
アルメリーアの姉、リーヴェニアのレナーテ王女の情報もあった。
彼女は国王の愛人との噂があるが、それにしては王妃とも奇妙に懇意らしいと。


王女が愛人になるなどにわかには信じがたい。
しかもアルメリーアの姉が?
姉とはあまり親しくないと、そういえばアルメリーアは以前言っていたが・・・。


しかし、それなら王妃とも親しいというのはおかしな話だ。
王妃が王の愛人と親しく付き合うなど、普通ではまずあり得まい。
レナーテ王女が王の愛人というのは信じるに足る話なのか?



そのほかにもマティアスの報告は多岐にわたっていたが、ただ一つ、ナターリエの結婚交渉の条件については何も触れていなかった。
ふだん仕事の早いマティアスなのに、らしくもない。
このところのマティアスは明らかにナターリエに執心だったし、やはり彼女を他の男に渡したくはないのだろう。
ディアルは従兄弟の行動に彼の真意を見る気がする。


以前ナターリエと踊ってみせた時のことを思い出す。
それを見たマティアスが頭に血を昇らせ、自分と彼女の間に割り込んできたことを。
あれこそがもう長いこと見ていない本来のマティアスだ。
セシリアがいた頃のマティアス。あの愛と希望と生気に溢れていた・・・。


しかしながら、ナターリエに必要なのは結婚相手なのだ。
彼女にこれ以上時間を空費させるわけにも、傷心を重ねさせるわけにもいくまい。
彼女の立場にふさわしい縁談を粛々と進めるべきだ。
ディアルはひとまずそれを既定路線とした。


だが・・・今ならまだナターリエは自由の身だ。
マティアスよ、彼女を取り戻すなら今のうちだぞ。


ディアルは引き続きマティアスにナターリエの結婚交渉をせっつくことにした。
頭にきたマティアスがナターリエを奪いにくることを願いつつ・・・。